カッコいいリフの歴史を個人的にたどってみる

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音楽って、もちろんいろんな聴き方があると思うのですが、特にヘビーメタルやハードロックって、個人的には「リフ」がカッコイイかどうかでその曲に対する印象が全然変わってくるような気がします。

ギターといえば「速弾き」もカッコイイのですが、リフはその曲のコードやリズムといった根本のところから作られるもので、そういう意味では速弾きがなくても曲は成り立つけれど、リフはなくてはならないものだといえるでしょう。

「リフ」って何だ、という点に関しては音楽的にはさまざまな定義があると思います。ヘビーメタルやハードロック(以下、「HR/HM」)などのジャンルにおいては、乱暴にひとことで言ってしまえばギターやあるいはベースによる「伴奏」ということになるかと思いますが、ただ伴奏というだけでは曖昧すぎるので、そこに音型という要素が加わるという点が重要なのかなと思います。

音型という言葉もまた曖昧ですが、その曲のコードやリズムを元にしたひとつの音の群、またはフレーズといえばよりわかりやすいでしょうか。

HR/HMにおいては、このリフは主にギターで演奏されます。ギターはとても万能な楽器で、メロディーを演奏することもできれば、コードをかき鳴らすストロークもできますし、カッティングやたたくようにしてパーカッション的な演奏をすることもできます。

メロディーはそもそもヴォーカルが歌うものだし、かといってコードをジャーンジャーンと弾いているばかりではおもしろみがありません。ヴォーカルを邪魔することなく、曲の特徴を表しながら、さらにはギタリストの個性も織り込めるもの。リフは、そのバンド、ミュージシャンのセンスが問われるものともいえるのではないでしょうか。

ここではHR/HMにおける「リフ」のカッコよさの歴史を僕の個人的な音楽経験を元にたどっていきたいと思います。

気に入ったバンドのアルバムを聴き、今度はそのバンドが影響を受けたというバンドのアルバムを聴き、といった具合にルーツはさかのぼられるものですし、僕もそういう道をたどりました。

けれど、そうした経験からある程度時間が経ってしまいましたので、ここであらためてたどってみようと思ったわけですが、たどり方に関しては、あくまで「僕の個人的な」経験ですのであしからず。

さて、BABYMETALの曲で印象的なリフというと、どんな曲を思い出すでしょうか。ファーストアルバムでいえば、やはり「ギミチョコ!!」でしょうか。

BABYMETAL「ギミチョコ!!」

イントロからAメロにあたる「あたたた」~「NEVER!」までの二種類のリフはシンプルに繰り返されるのですが、この反復はちょうどHIP HOPのコラージュ、サンプリングの感覚に近い気もします。

フレーズが何の展開もなく単純に反復されると、始まりも終わりもないような、時間の感覚が狂わされるような特徴があるかと思います。もちろん演奏とともに時間は正常に過ぎていくのですが、聴く側はどこかでこの正常に過ぎていく時間とズレていく、そんな感覚をこのリフは持っているのかもしれません。

ふと思い出したのでついでに書いておくと、この正確に流れている時間を「クロノス」、自分で感じる主観的な時間を「カイロス」、何もないところから発生する時間を「イーオン」というそうです。「ギミチョコ!!」を聴いているうちに止められなくなるのはやはり「クロノス」とは違う時間が発生するからでしょうか。

ファーストアルバムのなかで、よりオーソドックスなメタルのリフという点では「BABYMETAL DEATH」「ド・キ・ド・キ☆モーニング」「紅月」があげられるかと思います。「ドキモ」はコミカルさに気がいってしまいますが、イントロのリフはしっかりヘヴィーに作られていてズシッとしたパンチが効いています。

あと、ファーストアルバムには収録されていませんが、個人的には「君とアニメが見たい」のサビのリフがカッコいいことに最近気がつきました。もっとも、この曲のリフはキバオブアキバそのままですが。

そして先日発売されたセカンドアルバムに関しては、かなり多彩だという印象があります。もともと聴覚上のインパクトはBABYMETALにおいてはかなり重要視されているでしょうから、どれも手が込んでいるといえます。

BABYMETAL「KARATE」

たとえば「KARATE」では、ゆいもあの「セイヤ!~」をAメロ、SU-METALの歌いだし部分をBメロとすると、AメロBメロともに、1コーラス目と2コーラス目ではリフが異なる作りになっていることがわかります。手が込んでいますよね。

では、実際にHR/HMにおけるリフの歴史をたどってみたいと思いますが、まずは1988年のメタリカさんです。

いきなり80年代で申し訳ないのですが、メタリカはBABYMETALと直結する影響関係だと思うので、ここらへんからはじめるのが適当かなぁと思うのと、あとだいたい90年代以降のHR/HMは僕はほとんど聴いていなくて(スミマセン)、ここよりもむしろ、まとめサイトを見たほうがよっぽど詳しく書かれているかと……。

1980年代

Metallica「One」(1988)

そもそも、僕がはじめて買ったメタルのアルバムがメタリカの4枚目『…And Justice For All』(1988)でした。この「One」の前半のリフはギターを歪ませているところとそうでないところの対比、歪ませているところはヴォーカルのパートとユニゾンっぽくなっているのがおもしろいですね。そして後半のリフは一気に疾走感のあるものになっています。シンプルですが、引き算的に研ぎ澄まされたリフという印象です。

Living Colour「Cult Of Personality」(1988)

それまでのHR/HMで弾かれていたコードバッキング的なリフではなく、フレーズ的なリフを前面に押し出しているのが斬新でした。

フレーズ的なリフはもっと以前からあるのですが、このリフは音の跳躍が激しいですよね。特にHR/HMにおいてはコードバッキングの重みと厚みが優先されていて、そしてそれが当然になっていたと思うのですが、このリフはそういった価値観をガラッと変えたリフだったのではないでしょうか。こうした動きがミクスチャーやオルタナティブといった流れを生んだきっかけのひとつにもなっていると思います。

Cinderella「Bad Seamstress Blues/Fallin’ Apart at the Seams」(1988)

ドップリとブルースに浸かったシンデレラのこの曲のリフではスライドバーが使われています。ボトルネック奏法ともいわれる演奏ですね。チャック・ベリー直系のリフもあったりします。80年代のハードロックのバンドでもブルースに影響を受けていることを明言する人も少なくなかったと思います。

Guns N’ Roses「Welcome to the Jungle」(1987)

ガンズはハードロックですが、いわゆる縦ノリというよりは横ノリ、というのがひとつの大きな特徴だと思います。イントロからAメロにかけてのリフはそれを具体的にあらわしているものといえるでしょう。

Mötley Crüe「Wild Side」(1987)

イントロのギターリフはもう単純にカッコいいですね。リフを聴くだけでハーレーを想像してしまう。リフがいかにその曲の顔として機能しているかということを教えてくれます。

Van Halen「Panama」(1984)

コードバッキング的なリフというと、ギターの低音弦をメインに使うのが一般的かと思いますが、高音弦を効果的に使っているのがこういったリフかと思います。抜けのいい響きが西海岸っぽいというのはちょっと安直でしょうか。

Vandenberg「Friday Night」(1983)

ヴァン・ヘイレンからオランダつながりというわけではありませんがヴァンデンバーグです。
ルート音と高音弦の組み合わせという典型的なハードロックのリフですね。

Iron Maiden「The Number of the Beast」(1982)

ベースとギターがリフを弾きはじめてそこにヴォーカルが乗っかってくるっていうパターン、アイアンメイデンではわりとよく聞かれるパターンかと思います。そしてこのスケール感。カッコいいですね。

Ramones「Do You Remember Rock ‘N’ Roll Radio」(1980)

お約束ですね。よんよん!

1970年代

AC/DC「Bad Boy Boogie」(1977)

AC/DCのリフはどれも本当にシンプルです。それなのにこんなにもカッコいい……。

Sex Pistols「Holidays in the Sun」(1977)

基本的にはロックンロールのリフを使っていますが、イントロや中間部の一音ずつ下げていくリフがカッコいいです。

J.J.Cale「Cocaine」(1976)

エリック・クラプトンのカバーが有名ですが、こちらがオリジナル。ひとつのフレーズをずっと繰り返すパターンですね。ブルースからの影響でしょうか。

Queen「Stone Cold Crazy」(1974)

クイーンにこういう楽曲があるのはけっこう意外に思いました。しかも70年代前半です。YouTubeのコメントにはブライアン・メイは1968年に作曲したと書かれてありますね。メタリカがこの曲をカバーしていますが、違和感がないのがスゴイです。

Aerosmith「Make It」(1973)

個人的には、特に初期のエアロスミスは、カッコいいリフの”デパート”という印象があります。まだそんなにロックを多く知らない時期に聴いたということもあってか、サビの箇所の、オクターブを一音ずつ上がっていくリフはとても衝撃的でした。

Deep Purple「Smoke on the Water」(1972)

イントロのギターリフは世界でもっとも有名なリフのひとつですね。僕も弾きました。

Led Zeppelin「Black Dog」(1971)

単音のフレーズによるリフがインパクト大ですね。しかもポリリズムにもなっている変態的なリフです。

Free「All Right Now」(1970)

シンプルながらイントロからガツンとくるリフですね。

1960年代ともっと昔

Rolling Stones「Jumpin’ Jack Flash」(1968)

ここまでくると「ハードロック」とか「ヘビーメタル」とはいえなくなっちゃいますね。ですが、ストーンズはルーツをたどる上では本流中の本流です。

Cream「Sunshine of Your Love」(1967)

クリームは分類上はブルースロックバンドですが、当時としてはヘビーなサウンドだったためにその後のHR/HMシーンの誕生に大きな影響を与えています。ギターだけでなく、ベースもフレーズでアンサンブルを構成しています。

Jimi Hendrix Experience「Purple Haze」(1967)

リフといえばこのジミヘンも忘れるわけにはいきません。多くのミュージシャンに影響を与えたジミヘン、そしてこのリフもまた大きな影響を与えたリフだと思います。

The Yardbirds「Train Kept A Rollin’」(1965)

繰り返される音型、リズムは走り続ける鉄道をあらわすものでもあります(ブルースハープは汽車の走行音や汽笛)。リフにはそういった機能もあるわけですね。

Chuck Berry「Johnny B. Goode」(1958)

いわずと知れたロックンロールの名曲ですね。このギターリフはチャック・ベリー以降、ロックンロールの超定番としてその後も受け継がれています。

Muddy Waters「Manish Boy」(1955)

それまでアコースティックで演奏されていたブルースにエレキ・ギターを導入し、ブルースをさらに発展させたマディ・ウォーターズ。リフは超シンプルで歌と交互に演奏されています。AC/DCの「Whole Lotta Rosie」のリフを連想してしまいます。

Robert Johnson「Sweet Home Chicago」(1936)

チャック・ベリーの「Johnny B. Goode」の有名なリフにしてロックンロールの超定番リフを、さらにさかのぼること20年、伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンがすでに弾いています。ツェッペリン、エアロ、AC/DC、ロックの偉大なリフの、歴史の源流をここに見ることができるでしょう。

番外編 さらに時代をさかのぼってみた

「カッコいい」かどうかは別として、せっかくここまできましたので、ここからもっとさかのぼってみたいと思います。「ギターリフ」からはちょっと離れてしまうかと思いますが、単なる「伴奏」からどうやって「リフ」が生まれてきたかということを意識しながらたどっていきます。

フランツ・シューベルト「野ばら」D.257

シューベルトの有名な歌曲「野ばら」はもともとピアノ伴奏の歌曲として1815年に作曲されましたが、曲によっては後年、オーケストラ伴奏などに編曲されたりもしています。ここではリフということでピアノよりはバンドスタイルに近いギター伴奏を探してみました。

この動画には「野ばら」D.257、「海の静けさ」D.216、「夜の歌」D.119の三曲が収録されていますが、特に「野ばら」はルート音と他の構成音という組み合わせのストロークがHR/HMにおけるバッキングリフに共通しているかなぁなんて気がしなくもないです。ちなみにテノールはマルック・ラウトヤルヴィ、ギターはパトリク・クレーモラ(敬称略)。どちらもフィンランドの方ですね。

ジョン・ダウランド「流れよ我が涙」

「流れよ我が涙(Flow my tears)」はイギリスの作曲家、リュート奏者であるダウランド(1563-1626)の有名なリュート歌曲で1600年に出版されました。上の「野ばら」がコードバッキングであるのに対して、こちらのリュートによる伴奏はアルペジオありフレーズありで多彩といえるかもしれません。もっとも「野ばら」の伴奏パートは歌を邪魔しないように簡潔に作られているそうですが。ちなみに歌唱はカウンターテナーのアンドレアス・ショル、リュートはアンドレアス・マルティンです。

薩摩琵琶 鶴田錦史「壇の浦」

(※音声のみです)

中世日本における琵琶の音楽はもともと経文をとなえるためのものだったようですが、室町時代になって薩摩の盲僧のあいだで武士の教養のための「語りもの」として発展していったのが薩摩琵琶です。

鶴田錦史(1911~1995)は伝統を基礎としながら琵琶の演奏を前面に押し出し、それまでの薩摩琵琶に変革をおこしました。細かくて速い撥弦や、低音弦と高音弦の組み合わせ方など、ギターのリフを思わせる箇所もあります。

トルヴェール(吟遊詩人)の音楽 作者不詳「ギヨームの歌」(12~13世紀)

琵琶の音色にのせ経文をとなえて各地を巡った琵琶法師が日本にいたのと同じように、中世のフランスにはフィドルやハープ、笛にのせて歌う吟遊詩人(南フランスではトルバドゥール、北フランスではトルヴェール、ドイツではミンネゼンガー)がいました。

この動画で歌われているのは「武勲詩」と呼ばれるもので、そのうちの代表曲のひとつ「ギヨームの歌」は反キリスト教勢力との戦いを歌っています。ちなみに演奏はアントワーヌ・ゲルバー指揮、ディアボルス・イン・ムジカです。スレイヤーに同名のタイトルのアルバムがありますね。

さすがにここらへんまでくると「リフ」さらには「カッコいいリフ」というわけにはいかなくなってしまいますね。これはもはや「伴奏」の話でしかないと、書いていてイヤでも気づかされます(笑)

強引にも中世までさかのぼってみましたが、ここから先は、楽譜が残っていない、あるいは楽器が発達する前の時代なので楽譜はあっても伴奏のない合唱(9~10世紀のグレゴリオ聖歌など)だったりするといった世界になるかと思います。

しかし、こうやって書いてみると、意外にさかのぼれるもんだなぁというのが正直な感想です。音楽そのものが数百年をかけて発展していって、そこからロックが誕生してさまざまなスタイルへと派生していって、HR/HMというシーンのなかでもまたいろんなスタイルがそれぞれ研鑽されていって、というふうに、なんだかひとつの宇宙を見るような、といったら大げさでしょうか。

でも、そういう意味ではリフもまた、単なる伴奏だった時代から、音楽や楽器・機材の発達とともに進化していったからこそ、現在の「カッコいいリフ」を聴くことができるのだということかと思います。

では、ずいぶん長くなってしまいましたし、良きところで終わりにしましょうか。